
咳
皆さんは、咳が長く続いて心配になったことはありませんか?
咳は持続期間や特徴から、さまざまな病気の手がかりになることがあります。多くの人は咳が10日ほどで治まると考えていますが、実際には1~3週間続くことが多いです。
咳のタイプと原因
急性の咳(3週間以内)
もっとも多いのはウイルスや細菌による感染症です。いわゆる風邪(上気道炎)や急性気管支炎で咳が出るのは、気道が炎症を起こしているためです。原因となる微生物には、コロナウイルス、ライノウイルス、マイコプラズマ、百日咳菌、クラミジアなどがあります。
亜急性の咳(3~8週間)
ウイルスやマイコプラズマ、百日咳などの感染後に気道が敏感になり、ちょっとした刺激で咳が出やすくなります。運動後や深呼吸、タバコの煙などがきっかけになります。
とくに百日咳では、「スタッカートレプリーゼ」と呼ばれる発作的な咳の連発と、その後の「ヒューッ」という息継ぎ、さらには咳の勢いで吐いてしまうこともあります(動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=31tnXPlhA7w)。
慢性の咳(8週間以上)
慢性的な咳の三大原因は次のとおりです。
- 咳喘息:冷たい空気を吸い込む、長時間の会話、運動などで咳が出やすくなります。アレルギー体質の方に多く見られます。風邪をひいた後はいつも咳が長引くという病歴を持つ人が多いです。
- 上気道咳症候群(後鼻漏症候群):鼻水が喉に流れ落ち、それが気道を刺激して咳を引き起こします。
- 逆流性食道炎:胃酸が食道粘膜や咽頭、喉頭を刺激し、慢性的な咳を引き起こすことがあります。臥位になると悪化する傾向があります。
これらの疾患は単独で起こることもあれば、複数が合併していることもあります。
咳への対処法
咳をすぐに止めてくれる「特効薬」は実はあまり多くありません。しかし、いくつかの方法が症状の軽減に役立ちます。
- ハチミツ:上気道感染に伴う咳に対して、ハチミツが有効であるという研究結果があります1)。小さじ一杯の蜂蜜を温かい珈琲(紅茶)に溶かして、1日3−4回飲みます。ただし、1歳未満の乳児には与えないでください。
- 抗菌薬:マイコプラズマや百日咳には抗菌薬が有効です。
- 咳喘息:吸入のステロイドと気管支拡張薬を使うと、数週間で症状が改善します。
- 上気道咳症候群:アレルギーが原因であれば点鼻ステロイドを、そうでなければ抗ヒスタミン薬を使います。
- 逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用に加え、生活習慣の見直し(就寝前の食事を避ける、減量など)が大切です。
おわりに
咳は、身体が私たちに送る「何かがおかしい」という小さなサインです。看護師として患者さんに寄り添うには、このサインに耳を傾け、冷静に原因を探る力が求められます。咳の背景にある「物語」を見抜く力を、少しずつ身につけていきましょう。
参考文献
1)Abuelgasim H et al. Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis. BMJ Evidence-Based Medicine, 2021