学校長の部屋

2025.09.19

渡辺一史 『こんな夜更けにバナナかよ』

この本は、筋ジストロフィーを患いながらも自立して生きようとした一人の男性、鹿野靖明さんの姿を描いたノンフィクションです。鹿野さんは40代。病気が進行し、気管切開を受け人工呼吸器を装着しています。体を自分で動かすことはほとんどできません。それでも、彼は「障害があっても社会で暮らす」という強い意志を抱き、多くの学生や主婦のボランティアに支えられながら日々を送っていました。

鹿野さんの生活は、昼も夜もボランティアに助けられて成り立ちます。吸引や体位交換、食事や排泄の介助・・すべてが人の手による支援です。泊まり込みのボランティアは、夜通し彼と向き合いながら過ごします。

そんなある夜、「バナナ事件」が起こりました。深夜、眠っていたボランティアの国吉さんが、鈴の音で起こされます。鹿野さんは「腹が減ったからバナナ食う」と言うのです。「こんな真夜中にバナナかよ」と国吉さんは心の中で憤りながらも、無言で皮をむき、口へ運びます。ようやく一本食べ終えたと思った矢先、「国ちゃん、もう一本」と鹿野さんの声が飛びます。

鹿野さんの姿からは、「生きるとはどういうことか」「障害者の介護や福祉とは何か」といった問いが自然と湧き上がってきます。

読後には、介護する側の葛藤や、支えられながらも自分らしく生き抜こうとする人間の強さが、心に深く刻まれるでしょう。看護を学ぶ皆さんにとって、この一冊は、命と向き合う自分自身の姿を考えるきっかけになるはずです。