
山田悠史著『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』を読みました。
ページをめくるたびに、「人が老いるとはどういうことか」「老いを支える医療とは何か」を、あらためて深く考えさせられました。
本書に登場する“5つのM”は、2017年にカナダとアメリカの老年医学会が提唱した、高齢者診療の大切な指針です。老いの姿は一人ひとり異なりますが、この5つに丁寧に目を向けることで、その方の人生にそっと寄り添う医療が見えてきます。
1)Mobility(身体機能):どれほど身体を動かせるのか。
その人らしい生活を守るうえで、歩く・立つ・座るといった当たり前の動作がどれほど大切かを思い知らされます。
2)Mind(認知機能・精神状態):認知症やうつ病は、高齢者にとても多い病です。
心が揺れる日々にも寄り添い、尊厳を守る姿勢が求められます。
3)Medications(薬・ポリファーマシー):年齢を重ねるほど、薬は増えていきます。
しかし「本当に必要な薬はどれか」を考え続けることも、医療者の大事な役割です。
4)Multicomplexity(多疾患・複雑性):高齢者は複数の病気を抱えながら生きています。
単一の病名では語りきれない“暮らしの複雑さ”に、私たちは耳を澄ませなければなりません。
5)Matters Most to Me(人生で最も大切なこと):
―あなたの人生にとって、いちばん大事なことは何ですか?
これは、医療において最も深く、そして最も尊い問いです。
人生の優先順位は、元気なうちに家族へ伝えておくことが何より大切です。
「治療」より「生き方」が問われる場面は、高齢者医療には数えきれないほどあります。
私自身、子どもたちにこう伝えています。
「お父さんは、美味しいものを食べることが人生最大の楽しみだ。たとえ誤嚥して命を縮めたとしても、鼻からチューブを入れたり胃瘻を造ったりはしないでほしい。」
医師である前に、一人の人間として、そう願っています。
皆さんがこれから向き合う患者さんも、必ず“その人が大切にしてきた物語”を抱えています。
5つのMは、その物語の扉をそっと開くための鍵です。
どうか、目の前の患者さんの人生に、静かに耳を傾ける看護師になってください。