
年の瀬が近づくと、どこからともなくベートーヴェン(1770–1827)の「第九」が響きはじめます。歓喜の合唱は、私たちの心を高らかに揺さぶります。
山根悟郎氏の著書『歴代作曲家ギャラ比べ』によれば、この不朽の名作は初演の際、会場を埋めた聴衆を熱狂の渦に巻き込みながらも、収益面では意外なほど振るわなかったようです。約200万円の利益が見込まれていたものの、オーケストラや合唱団、さらには写譜の費用がかさみ、純益はわずか42万円。その事実を知ったベートーヴェンは、みるみる不機嫌になったと伝えられています。
ベートーヴェンは幼い頃から、アルコール依存だった父を支えるために金銭の苦労が絶えず、生活の不安は常につきまとっていました。20代にはすでに卓越したピアニストとして名を馳せ、ピアノレッスンでも収入を得ていましたが、30歳頃から難聴が進み、やがて作曲だけで生計を立てざるを得なくなります。
性格は決して穏やかとはいえず、友人にしたくないタイプの人物だったとも言われます。恋愛も幾度となく経験したものの、最後まで実を結ぶことはありませんでした。生涯独身であったことは広く知られています。
学校の音楽室に飾られた肖像画の険しい表情を思い出すと、どこかその孤独や生きづらさまでも伝わってくるようです。それでも彼は、不屈の精神で情熱の火を燃やし続け、数々の輝かしい作品を後世に残しました。困難を抱えながらも創造をやめなかったその姿こそ、ベートーヴェンという人間の真の魅力なのかもしれません。