学校長の部屋

2026.02.10

落語

水戸にある弘道館を訪れました。ここは江戸時代、日本最大規模を誇った藩校です。歴史や天文、数学といった学問だけでなく、剣術や柔術、水泳などの武芸も重んじられ、藩士とその子弟は15歳から40歳まで、心と体の両方を鍛えました。医師を育てる医学館も併設されていたと伝えられています。「人としてどう生きるか」を学ぶ場だったのでしょう。

同じ江戸時代に生まれ、今も人々に親しまれている芸術の一つが落語です。『あかね噺』という漫画が人気を集めていることからも、その魅力が現代に受け継がれていることがわかります。
落語の語りの中には、武士や職人の日々の暮らし、夫婦の情愛、人と人との温かなつながりが、笑いとともに描かれています。時に涙を誘うその物語は、忙しい現代を生きる私たちの心にも、静かに寄り添ってくれます。

看護学生の皆さんも、勉強の合間に、ほんのひととき落語の世界に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。患者さんの人生に耳を傾ける力は、こうした物語に触れる経験の中で育まれていきます。

私が大好きな演目を紹介します。

「死神」
借金に追い詰められ、自ら命を絶とうとした男が死神と出会い、不思議な取引を持ちかけられます。人の生と死という重いテーマを、どこか可笑しく、しかし鋭く描いた噺です。

「芝浜」
酒に溺れ、貧しい暮らしを送っていた魚屋の男が、大金を拾ったことをきっかけに人生を見つめ直します。夫を信じ、静かに支える妻の姿が胸を打つ、夫婦愛の名作です。

「中村仲蔵」
努力を重ねながらもなかなか報われなかった役者・中村仲蔵。与えられたのは、誰の目にも留まらない端役でした。しかし彼は工夫を凝らし、観客を驚かせる演技を生み出します。実在の歌舞伎役者、初代中村仲蔵の人生に基づいた、人情あふれる物語です。

笑いの中に、人の弱さや優しさ、生きる知恵が詰まった落語。
皆さんの感性を、そっと豊かにしてくれる時間になることを願っています。