
最近、小林武彦先生の『なぜヒトだけが老いるのか』という本を読みました。
私たち人間にとって「老いる」ということは、ごく当たり前のことです。けれども自然界を見渡してみると、老いながら長く生きる生き物は、実はとても珍しい存在です。
野生の動物は、体の動きが少しでも鈍くなると、すぐに捕食されてしまいます。つまり、多くの生き物は「老いる前に」命を終えるのです。
それに比べて、人間は老いながらも長く生き続けます。細胞の中には少しずつ傷が蓄積し、体はゆっくりと衰えていきます。それでも私たちは、年を重ねながら生き続けることができるのです。
では、なぜ人間は老いながら生きるのでしょうか。
その答えの一つとして、「おばあちゃん仮説」という考え方があります。
祖父母は、子育ての経験を持ち、家族を助け、若い世代を支える存在です。おばあちゃん(おじいちゃん)が元気な家族ほど、安心して子どもを育てることができ、社会はより安定していきます。
つまり人類は、年を重ねた人がいる社会が選択され生き残ってきたとも言えるのです。年齢を重ねた人が社会に残すものは、知識、経験、技術、そして人を支える優しさです。そしてもう一つ重要な役割があります。それは、若い世代に希望と勇気を伝えることです。
皆さんがこれから生きていく社会には、「空気」というものがあります。
周りがそうしているから、自分もそうしてしまう。
そんな目に見えない流れです。
けれども、皆さんにはその空気に流されるのではなく、
「自分はどんな人になりたいのか」という志を大切にしてほしいと思います。
若いうちは、失敗を恐れなくていいのです。
むしろ、どんどん挑戦してください。
人が嫌がる仕事の中には、思いがけない宝物が隠れていることがあります。
どんな仕事も誠実に、全力で向き合う人は、必ず成長します。
また、「おばあちゃん仮説」が教えてくれるように、人は決して一人では生きていません。皆さんの夢を支えてくれている家族や周囲の人への感謝の気持ちを、どうか忘れないでください。
そして、もう一つ大切なことがあります。
それは「利他の心」です。
人に優しくすること。
誠実に人と向き合うこと。
相手の幸せを願うこと。
そのような生き方を続けていると、不思議なことに、自分自身も幸せを感じられるようになります。若いうちから少しずつ「徳」を積んでいってください。
人生には、つらいこともあります。
思うようにいかない日もあるでしょう。
そんなときは、どうか顔を上げてください。
おいしいものを食べ、体を動かし、そして明るく前に進んでください。
人には、困難を乗り越える力が備わっています。
私はいま、人生の終盤に差しかかっています。
いわば「シニア」世代です。
シニアの役割は、これまでの経験や知識の中から、本当に価値のあるものを整理し、次の世代に手渡すことです。私はこれからも、医学の知識や人生の経験の中から、皆さんの人生にとって本当に大切なことを、わかりやすく伝えていきたいです。
皆さんが看護師として、人の苦しみに寄り添い、
人の人生を支える温かい存在になってくれることを、心から願っています。
そしていつの日か、皆さんが経験を重ね、
誰かを励まし、支える存在になったとき、
「ああ、人は老いるからこそ、次の世代を支えられるのだ」
そんなことを思い出してくれたら、とても嬉しく思います。