
私の人間ドック外来を訪れる方々とお話ししていると、がんや認知症に対する不安を、多くの方が胸に抱えていることに気づかされます。「何か調べておきたい」「できるだけ早く見つけたい」と願う気持ちは、ごく自然なものです。
けれども医療の世界には、ひとつ大切な原則があります。
それは、「調べれば調べるほど良い」という単純なものではない、ということです。
たとえば、腫瘍マーカー。
血液検査でがんがわかると聞けば、安心につながるように感じるかもしれません。
しかし実際には、CEAやCA19-9といった腫瘍マーカーは、症状のない方のがんを見つける検査としては適していません。
見逃しが少なくない一方で、がんではない病気でも値が上がることがあり、その結果、不必要な不安や追加の検査を招いてしまうことがあります。
唯一、例外として語られることのあるPSA(前立腺がんの検査)でさえ、利益と不利益の両面をよく考え、本人と相談しながら慎重に選ぶべき検査です。
また、脳MRI検査も同じです。
「認知症が心配だから、一度調べておきたい」と希望される方は少なくありません。
しかし、症状のない方にMRIを行っても、認知症の早期発見や治療の改善につながるという十分な根拠はありません。
それどころか、正常であっても異常のように見えてしまうこと(偽陽性)があり、かえって不安が強くなることもあります。
では、本当に大切な検査とは何でしょうか。
それは、「命を守ることが科学的に証明されている検査」です。
たとえば、
大腸がんの便潜血検査、乳がんのマンモグラフィ、子宮頸がんの細胞診やHPV検査、胃がんの内視鏡検査、そして喫煙歴のある方に対する肺がんの低線量CT。
これらは、受けることで実際に寿命が延びることが示されている検査です。
さらに忘れてはならないのが、生活習慣病の評価です。
血圧、血糖やHbA1c、コレステロール、体重。
これらは目立った症状がないまま進行し、やがて大きな病気につながる「静かな病」を見つけるための、大切な手がかりです。
ここで、看護師をめざす皆さんに、ぜひ覚えておいてほしいことがあります。
「患者さんの不安は、検査だけでは消えないことがある」という事実です。
むしろ、意味の乏しい検査が、新たな不安を生み出してしまうことさえあります。
だからこそ看護師には、
患者さんの不安にそっと寄り添いながら、科学的に正しい情報を伝え、本当に意味のある医療へと導く――そんな大切な役割があります。
医療とは、「たくさん調べること」ではありません。
「その人にとって本当に必要なことを選ぶこと」です。
人間ドックは安心を得るための場ですが、その安心は「検査の数」ではなく、「検査の質」から生まれます。
どうか皆さんも、検査の意味を理解し、患者さんの心に寄り添える看護師になってください。その一つひとつの関わりが、これからの予防医療を支える大きな力になるはずです。
さらに詳しい情報は、亀田メディカルセンターのこちらのサイトが役立ちます。