学校長の部屋

2026.07.23

ユマニチュード

ユマニチュード

〜「あなたは大切な存在です」という思いを、ケアで伝える〜

看護とは、病気だけを診る仕事ではありません。目の前にいる一人の人と向き合い、「あなたを大切に思っています」という気持ちを伝える仕事です。

しかし、認知症やせん妄のある患者さんは、不安や混乱の中で、私たちのケアを「怖いこと」と受け止めてしまうことがあります。

ユマニチュードは、そのような患者さんに安心を届けるために、1979年、フランスのイブ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって考案されたケアの技法です。認知症だけでなく、高齢者、終末期の患者さん、入院中のすべての患者さんとの関わりに生かすことができます。

なぜユマニチュードが必要なのでしょうか

患者さんが拒否しているのは、採血や清拭そのものではないことがあります。突然近づかれる。無言で腕をつかまれる。上から見下ろされる。そんな出来事が、「何をされるのだろう」という恐怖につながるのです。

ユマニチュードは、「ケアの内容だけでなく、伝え方が安心を生み出す」という考え方を大切にしています。

ユマニチュードの4つの柱

① 見る(Gaze)

患者さんの正面に立ち、目線を合わせ、やさしく見つめます。人は目を合わせてもらうことで、「自分を見てもらえている」「ここにいてよい存在なのだ」と感じます。

② 話す(Speech)

穏やかな声で、ゆっくり話しかけます。「こんにちは。」「少し肩に触れますね。」「ありがとうございます。」ケアの最中も声をかけ続けることで、不安は安心へと変わっていきます。沈黙は、ときに患者さんの不安を大きくしてしまいます。

③ 触れる(Touch)

手のひら全体で、やさしく包み込むように触れます。皮膚は、人の体で最も大きな感覚器です。触れ方ひとつで、安心にも恐怖にもなります。「触れる」ことは、言葉を超えたコミュニケーションなのです。

④ 立つ(Verticality)

できる限り座る、立つ機会を大切にします。立つことは、筋力や認知機能を保つだけではありません。「私はまだ自分の力で立てる」という、人としての尊厳を支える大切な営みでもあります。

ケアは「一つの物語」として行う

ユマニチュードでは、ケアを一つひとつの作業ではなく、一つの流れとして考えます。

1. ノックをして、患者さんの世界に入る許可をいただく。

2. 「仕事をしに来ました」ではなく、「あなたに会いに来ました」という気持ちで近づく。

3. 見る・話す・触れる・立つを組み合わせながらケアを行う。

4. 「今日は一緒に頑張りましたね」と成功体験を共有する。

5. 「また来ますね」と伝え、安心して次につなげる。

この最後の一言が、「次もこの人なら安心できる」という信頼を育てます。

看護の場面では

皆さんが実習で経験する清拭や更衣、食事介助、体位変換、バイタルサイン測定など、どの場面でもユマニチュードは生かせます。例えば血圧を測るときも、

・まず笑顔で目を合わせる

・名前を呼ぶ

・「血圧を測らせていただきますね」と声をかける

・やさしく腕に触れる 

そんな小さな心配りだけで、患者さんの表情がやわらぐことがあります。技術は患者さんの体を支えますが、心のこもった関わりは患者さんの安心を支えます。

看護学生へのメッセージ

皆さんは、これから多くの知識と技術を学びます。しかし、患者さんが何年たっても覚えているのは、「あの看護師さんは優しかった」「安心できた」という記憶であることが少なくありません。ユマニチュードは特別な技術ではなく、人を人として大切にする姿勢を形にしたケアです。

「見る」「話す」「触れる」「立つ」。この四つを意識するだけで、皆さんの看護はより温かく、より患者さんに寄り添うものになるでしょう。

患者さんに寄り添う一つひとつの行動が、「あなたは大切な存在です」という何よりのメッセージになることを、どうか忘れないでください。